悪いリーダーの捕まるところ

フセイン元大統領が捕まった場所は、農家の片隅に掘られた小さな穴の中でした。
穴は草やゴミで入り口が隠されていて、人間がひとり入るのがやっとくらいの大きさだったようです。
しかも、穴に入ってきたアメリカ兵に、敵国のアメリカとイギリスの公用語である英語で「わたしはイラク共和国の大統領だ。交渉したい」「撃つな」と言って命乞いしたらしいです。しかし、イラクの最高指揮官であったフセイン元大統領に対し、アメリカの戦力のほんの一部でしかない、そのアメリカ兵は「うちのブッシュ大統領がヨロシクと言っている」と、冷たくあしらいました。


それにしても、いつも思うのですが、悪いリーダーの捕まる場所、最後に逃げ込む場所というのは、ほとんど例外なく、狭くて暗い場所と決まっています。
ヒトラーが最後まで抵抗を続けたのは、ベルリンの総統官邸の地下室だったし、麻原彰晃が逮捕されたのは、上九一色村の教団施設の1階と2階の間の天井裏でした。ビンラディンも最後に声明を発表した場所はコンクリートに覆われた狭い部屋だったと言われています。
悪い指導者は立場が危うくなると、こういうところにネズミやゴキブリのように、必ず逃げ込みます。それはたぶん、自分の内へ内へと向けられていた、負のエネルギー、自分の劣等感から来るマイナスの力が、何かのきっかけで周囲のたくさんの人間を巻き込んで、その結果、悲惨な、大きな事件を起こしてしまったから、というのもひとつの原因だと思います。ただマイナスのエネルギーが自分の内に向かっていれば、ひとり孤独に自殺をむかえるのかもしれませんが、それすらできず、周りを巻き込んでドンチャン騒ぎの殺し合いをさせるのです。そうさせておいて、自分はさらに内へ内へと、暗い穴の中にもぐりこんでいきます。
12月になるとテレビでもよく放送される『忠臣蔵』では、赤穂四十七士の討ち入りにあった吉良上野介は、寝間着のまま炭小屋の中に隠れていました。これは、そういった悪いリーダーの習性を参考にして、吉良上野介が悪役だということを際立たせるための、脚色だと思うのですが、なんとも的を得た演出だと思います。
しかも赤穂浪士が吉良邸へ討ち入りしたのは、フセイン元大統領が穴で捕まった日と同じ12月14日でした。


24年もの間、イラクの独裁者として君臨してきたフセインの最後も、やっぱり暗くて狭い場所でした。