ダイコンをかます

お笑いの世界には「ダイコンをかます」という言葉があります。これは、意図的にボケをつぶすことを意味している、お笑い用語です。
例えば、舞台上に数人の芸人がいたとします。そのうちのひとりがボケたとして、そのボケにまったくツッコミや笑いなどのリアクションを起こさず、次の話題に移ってしまい、ボケた芸人を孤立させ、さむい芸人のように見せるのが「ダイコンをかます」という、手法です。
はっきり言って、ダイコンは最低のテクニックです。そうやって、ライバルの芸人の真の実力を出させないで、自分の方が面白いかのように見せる。勝負に勝ったかのように見せる。こんなことをしたって、自分の実力が上がったわけではないし、たとえ毎回うまくダイコンをかませても、真の実力者はいつか必ずそのダイコンをすり抜けます。
いつだって、お互いに真の実力を出し合って、勝負しなければ楽しくないじゃないですか。自分たちが楽しくなければ、お客さんだって、楽しいわけがないじゃないですか。勝ったって、楽しくなければ意味ないし、自分の本当の個性、真の実力を出さず、相手のちからを弱める、小手先のテクニックを磨いたって、クソの役にも立ちませんよ。お笑いは、スポーツみたいに点数の出る勝負の部分も、たくさんありますが、その点数は、人間の心を扱うお笑いの世界では、はたしていちばん重要なものなのでしょうか?
そんなのは、理想論で、実際には、人気にならなければ、実力がないんだ、という意見もあります。まさに言葉の上では、理論的には正しい意見です。
それでもね、相手チームの強い選手を金の力でどんどん獲得して、相手チームを弱くさせて勝とうとしている巨人が、真の実力があるチームなのかというと、疑問が残りませんか?
いつだって、自分が楽しめるように全力投球。たしかに、それは、甘い考えではありますが、少なくとも、ダイコンをかますような芸人よりは、まっとうなお笑いの在りようです。
本当の結果は、遠回りしたって、お客さんが楽しめるために、自分が楽しむ、舞台に出ている者は自分たちが、本当に笑えるように楽しむ、他の芸人のことを常に考えて、舞台自体を楽しくさせるところからしか、たどり着けないと思います。