3.最強馬

しかし、キョウエイボーガンはその後、2・3戦目こそ、後ろから行く競馬で8着、9着と惨敗したものの、デビュー戦翌年の5月23日、ジョッキーが松永幹夫騎手になってから、デビュー戦で見せた、逃げ戦法で一気に才能を開花させました。4連勝。この時期の4連勝は即、超一流馬と戦えるレース、すなわちG1に出走できる権利につながってきます。松永幹夫騎手は見抜いていたのです。キョウエイボーガンは逃げれば勝てる馬であることを。競走馬にはそれぞれに得意の脚質というものがあって、一般には、レース中、前方から中団にいる馬が安定して勝ちやすいといわれています。それに対して、最後方から直線だけで勝負を賭ける「追い込み」や、先頭を逃げ続ける「逃げ」は、一か八かの戦法と言われています。ところが、キョウエイボーガンは逃げ戦法に徹することで4連勝を達成しました。
そして毎年、この時期に連勝してくる馬は「夏の上がり馬」といわれ、3歳牡馬のみっつの大G1レース、「クラシックレース」の最後のひとつ、秋に行われる菊花賞で大穴を開けることが多いのです。キョウエイボーガンも菊花賞で台風の目になるであろう、夏の上がり馬として、にわかに注目を浴び出しました。
ところがこの年のクラシック戦線には、クラシックレースの菊花賞以外のふたつである「皐月賞」「日本ダービー」を無敗で連勝し、勇躍、菊花賞に乗り込んでくる、絶対的とも言える1頭が存在しました。名前はミホノブルボン。ジョッキーは小島貞博。脚質は逃げ。直線が長いため逃げて勝つのは難しいと言われる東京競馬場で、日本最高峰のG1「日本ダービー」を逃げ勝ちした、最強馬です。菊花賞を勝てば、日本競馬史上5頭目3冠馬、「クラシックレース全勝」を達成します。日本中がミホノブルボンの3冠達成を夢見ていました。


そして10月18日、菊花賞の前哨戦である、京都競馬場で行われた京都新聞杯で、ミホノブルボンとキョウエイボーガンは初めて顔をあわせました。注目は当然ミホノブルボンとキョウエイボーガンのどちらが逃げるかという1点でした。ところがレースが始まると、松永幹夫騎手のキョウエイボーガンはあっさりと後ろに下げ、ミホノブルボンを逃がしてしまいました。逃げずに9着、8着と惨敗していることはわかっています。しかし、年齢的にも成長したキョウエイボーガンなら、控える競馬でも勝てるのではないか?松永騎手は考えました。ところが結果はミホノブルボンが直線でムチも入れずに圧勝。キョウエイボーガンはいつもと違うポジション取りにあきらかに興奮し、10頭中9着に終わりました。
これで松永騎手の腹は決まりました。キョウエイボーガンは逃げなければ勝てない馬だ。菊花賞では、ミホノブルボンの前を走る。