胃の中の蛙

俺の胃の中には蛙がいる。あれは満州事変があった年の春だから、かれこれ2ヶ月は前のことだ。気がつくとやつは俺の胃の中に存在していた。もちろん最初はおたまじゃくしだった。やがてやつには後ろ足がはえ、前足がはえ、しっぽはなくなっていた。そして3日前の晩、俺が銀座の樹理のところでヘネシーをしこたま浴びて帰ってくると、突然右の耳の穴からやつは跳び出した。そしてぴょんぴょんと部屋の中を跳ねて行き、白いグランドピアノの上で俺をにらんでじっとしていた。俺とやつはお互いの目を凝視したまま対峙していた。その時やつは確かにアマガエルだった。だが、ものの2分もしないうちにやつはトノサマガエルになった。そして殿様になった。殿様は走った。夜の国道を。刀のツバをカチャカチャ鳴らして疾駆した。雨が降っていた。濡れたアスファルトに車のテールランプが反射して、国道はさながらうつろな宝石箱だった。国道2号をひた走る、いかしたあいつはシノビアン。ニンジャーーー!!!!リュック・べッソン監督は『TAXI2』という映画を撮り終わり、編集も完全にできあがった段階でスタッフ一同を集めてこう言ったという。「今日はテクシーで帰りますわ」。そして今、殿様は俺の前にいる。俺はあふれる涙をぬぐうこともせず、ただ一言こう言うのがやっとだった。「上様、こんなにご立派になられて…」。殿様は総てを諒解してたった一言こう言った。「ハリー・ポッターの女の子のパンツ丸見えの写真をくれ」と。