笑いの科学・1

笑いというのは人を幸せにする感情です。これは多分間違いないです。ぼく自身怒っている時や泣いている時より笑っている時の方が幸せだし、笑って過ごせる人は幸せな場合が多いと思います。多分、戦争が起こればその国に人はあまり笑わなくなるし、やくざやテロリストもあまり笑わないと思います。笑うことが少ない時点でやくざやテロリストはみすぼらしい人生だと思います。
ところが、何か逆説的なんですが、ぼくたちお笑い芸人は笑いの中にどっぷりつかるために、つまりお客さんに笑ってもらうために、他人を傷つけたり自分が傷ついているという一面もあります。傷つくことは幸せの反対側ですよね。変だけれど、これも事実なんです。
例えばぼくが「アツはナツいなー」と言って相方が「反対やないかボケ!」と言ったとします。当然ぼくは元から台本を知っているわけだし、何年間もツッこまれてきているから、お笑い側の心の皮が厚くなっているので、傷つくどころかうれしく感じます。東京オリンピックのマラソンで優勝したアベベ選手が裸足だったみたいなものです。アベベ選手の足の裏の角質は当時のスニーカーの技術を越えていたんです。だからぼくのお笑い側の心が世間一般のお客さんの考えを超えていればぼくも傷つかないしお客さんも傷つかないように見えます。ところが、もし、お客さんの中に子供の時とかに「アツはナツい」と間違って言ってしまったことがある人がいればその人は傷つきます。「みっちゃんみちみち」と歌えばみっちゃんと呼ばれている人は傷つきます。「アホか!」と言えばアホの人は傷つきます。これはお笑いの人間がどうしても抜けられないジレンマです。ブラックユーモアみたいなものではなくて、言葉遊び風のだじゃれだとしても「豚がぶった」と言えばそのだじゃれを言ってすべったことのある人や太っている人はなんとなく嫌な気持ちになるんです。
どうにかしてぼくはここを脱出したい。新しい笑いを作りたいといつも考えています。でも実際は難しいですね。