武士道

ぼくは高校生の時に河合塾という予備校に行っていました。そこで小論文という授業を取っていました。その授業は毎週半分の時間で小論文を書いて、残り半分の時間で先週自分の書いた小論文を添削されたものを返してもらって、先生が先週のテーマの解説をするというものでした。添削するのは先生ではなくてアルバイトの大学生でした。
ある週のテーマが「昔の日本人と今の日本人」というもので、ぼくは昔の日本人には武士道みたいな規範があったけれど、今はそういうものは個人個人で探さなければいけないから大変だ、というような内容の小論文を書いて提出しました。
次の週それを添削してもらったものを返してもらい目を通した瞬間ぼくはあ然としました。そこには「おれは呉服屋の息子で武士道みたいな言葉が大嫌いだ。0点」と書いてありました。売られたけんかは買わなければ嘘なので、ぼくは次の週「環境問題」がテーマだったのですが「なぜお前は小論文の中の論理的破綻を冷静に見つけて添削するのが仕事なのに、嫌いという感情で点数をつけているのか?アルバイトとはいえお前は自分の仕事を自ら否定するのか?」と書いて提出しました。次の週帰ってきた原稿用紙には「テーマがまったく理解できていない。よって内容もまったく関係ないことしか書かれていない。0点」と書かれていました。ぶちかますには今回しかないと思い、次の週は「マスコミ報道」についてだったのですが、ぼくは河合塾の名簿からそいつの住所を切り取り、セロテープで原稿用紙に貼って提出しました。すると次の週は「中央線の下りはあの時間は混んでるから大変だね。0点」と書かれていました。ここまできたら後ろから一発椅子かなんかで殴ってやるしかないと思い、アルバイトの大学生の控え室に行きました。そいつは背が高くて男前で髪を少し茶色に染めていて、女子高生と談笑していました。もうぼくの負けだと思いました。そんなところで殴りかかったらぼくが悪者になるのは目に見えています。こんな予備校のバイトの中にもこんなすごいやつがいるということは世の中にはどんだけすごいやつがいるんだろうと思いました。
それにしても今考えてみたら、最初に0点と書いてきた時点で先生に相談に行けばあいつは首になったはずなんですよ。まったくあきれた話しですよ。