ロック魂

ロックは音楽のジャンルです。「破壊する」という意味の言葉からつけられた名前で、だいたい、エルビス・プレスリービートルズあたりが発祥のようです。既成概念を破壊するという、若者の文化の象徴のようなジャンルがロックです。ぼくはこのロックという話しになると、どうしても思い出されるひとつのインタビューがあります。それは「ピチカートファイヴ」というグループの小西康晴という人のことです。この人はインタビューで「私の音楽は明確にロックです」と述べました。そしてロックの人間として尊敬するのは「マルコム・マクラーレン」だとも言っています。普通に考えるとロックは大音響でギターをかき鳴らす音楽であり、小西康晴の音楽とは正反対です。小西の音楽はジャズや歌謡曲の要素を取り入れ、またサンプリングという色々な過去の音楽や映画などから一部分を取り入れるという手法を多用しています。聞いた感じが要するにレトロなんです。しかもマルコム・マクラーレンという人は洋服屋さんです。なんとなくただの意味不明発言のようにもとれるのですが、ここには深い意味が込められているような気がします。マルコム・マクラーレンは70年代の後半、ヴィヴィアン・ウエストウッドという人とふたりでロンドンの下町で小さな洋服屋をしていました。ここに出入りしていたセックス・ピストルズという、音楽的にはなんでもないバンドを、洋服を変えるだけでパンクという世界的ムーブメントにしてしまいました。パンクはロックの中の1ジャンルです。音楽のジャンルなのに洋服で世界的人気にしてしまったんです。つまり、当時すでにプレスリービートルズが「ロック」であることは既成概念であって、音楽では破壊できないことはわかっていて、そこを洋服という違う側面から破壊したのです。小西康晴が自分をロックのミュージシャンだと言うのはその意味からだと思います。もう「ロック」という音楽では破壊しきれなくなった「ロック」を違うジャンルの、つまりかつて破壊されたジャンルの音楽を取り入れることによって破壊するということ。ロックはいつでも最先端の出鼻をくじくことだという考え方です。小西の音楽をいちばん最初に批判したのが山下達郎だという点も象徴的です。山下達郎はポップスの王道であり、あたかも「ポップス」かのような小西の音楽が許せなかったのだと思います。
ロックとはそういうものであって、みんなが「ああ、これはロックだな〜」と思うものはすでにロックではないと思いますよ。