犯人魂

犯罪者というのはその罪の大きさとは関係なく許されるものではないのですが、その中でも「こいつがすごい」というのは個人的にはグリコ・森永事件の犯人です。グリコ・森永事件というのは1984年3月18日の江崎勝久グリコ社長誘拐から85年8月12日の「終結宣言」が犯人からマスコミに届くまでの一連の企業恐喝事件です。グリコ・森永事件は「警察庁指定114号事件」という警察が本気になった事件で、この広域重要事件に指定された事件は「116号朝日新聞襲撃事件」とこの「グリコ・森永事件」だけが未解決です。つまりまだ犯人は誰だかわかりません。しかし、というかだからこそ色んな犯人像が思いうかばれ、なんともたまらないものがあります。ちなみにグリコ・森永事件の犯人は複数犯です。一般的には10人くらいではないかとみられているみたいです。犯人は自分たちのことを「かい人21面相」と名乗り、警察やマスコミに脅迫状や挑戦状を何度も送りつけまくりました。この手紙がすべて、リズムというかセンスが最高なんです。
「全国の おかあちゃん え
しょくよくの 秋や
かしが うまいで
かしやったら なんとゆうても 森永やで
わしらが とくべつに あじ つけたった
青さんソーダの あじついて すこし からくちや
むしばに ならへんよって お子たちえ こおたりや」
これは84年10月8日にマスコミに送られた挑戦状の最初の部分なのですが、なんともリズムが小気味よくないですか?かい人21面相の手紙はこのほかも全部なぜか犯人なのにえばっているようなギャグまじりの手紙なんです。究極形態は『月光仮面』の作者の川内康範に宛てた手紙の中の一文で「わしらも 月光仮面 見たで おもろかった あのころのテレビは あんしんして みれた いまの テレビ めちゃくちゃや 世の中 くるっとる」というところです。なんでお前に言われなきゃいけないんだよ!!と日本中の人がつっこんだと思います。しかし、ただの愉快犯とちがうところはなぜか捕まらないというところです。こんなアホみたいな手紙を送っておきながら、工場の中に放火したりとか、細い路地を100キロ以上でとばしてパトカーを振り切ったりとか、似顔絵が公開されて有名になった「きつね目の男」にいたっては、京都駅で捜査員の隣のベンチに座るという挑発的な行為をしておきながら捕まらない。犯人グループの中には小学生くらいの女の子がいるのですが、口を割らない。普通たまちゃんでもこんだけすごいことをすればまる子ちゃんに喋ってしまうもんですよ。この辺がものすごい犯罪プロフェッショナルな感じがします。このアンバランスさが世間の人々が注目した原因のひとつかもしれないです。