犬専用パン

うちに犬がいるんですが、この犬がパンが大好きなんです。だいたい犬は本を読むでなし、テレビを見るでなし、かといって妄想を繰り広げる脳みそがあるでなし、つまり散歩と食うことくらいしか楽しみがないんです。それでいつもは普通の犬のエサとかお菓子みたいのを食ってるわけですが、食パンを与えると狂喜乱舞して喜ぶんです。焼いてもいない生のパンがなぜそこまで美味いのかは謎なんですが、人間の食べ物は犬のエサよりも美味いみたいです。ぼくは犬のエサを食ったことはないので確信は持てませんが。
それで先日、犬のエサとかペットの色々なものを売っている店に行ったら「犬専用パン」というものが売っていました。「犬専用パン」は小さなクロワッサンの形をしていて、ひとつひとつがビニールの袋に入っていて「犬の栄養を考えた」パンなんです。これはもう、うちの犬のために開発された商品としか言いようがありません。早速それを買ってきてうちの犬に与えました。うちの犬はしっぽを振って食べ始めました。これは相当よろこんでいるだろうと思い、食べているところを眺めていたのですが、しばらくするとうちの犬はそのパンを口から出して、犬小屋の方へ行ってしまいました。「何故…」というやるせない気持ちでぼくはその場に立ち尽くしました。ぼくは遠くを見つめながらうちの犬が吐き出していった「犬専用パン」を拾いました。その瞬間、すべての謎がぼくの頭の中で溶解していきました。固い!固すぎる!!いくらなんでもそのパンは固すぎるんです。もはやパンの領域を超越してしまっているんです。鉄です。鋼鉄なんです。ぼくは小さくちぎれば食べられるかもしれないと思ったのですが、そんな考えは甘すぎるという現実が否応なしに突きつけられました。ちぎれない。ぼくの力なんかではとてもちぎれないんです。ぼくはコンクリートブロックを持ってきてそれで叩き潰してみました。ところが今度は潰れたはいいけど粉々になってしまい、犬はぺろぺろ舐めていたんですがなんとも食べにくそうでした。
あんなものは警察犬とかでやっと食べられるかどうかというラインですよ。まったくもってだまされた気分でした。