1.廃馬

競走馬は使えなくなれば廃馬になります。廃馬というのは廃車と同じ。殺されるのです。
競馬はながい年月をかけて、ただただ、速く走るためだけの馬を品種改良によって作り上げてきました。それは現在も同じです。勝てない父馬と勝てない母馬の仔馬は、やはり勝てない馬である確率が高い。牡馬(オス)は、年に数回行われるG1という、最強の馬を決めるレースに勝たなければ、まず生きる権利は手に入りません。引退後、乗馬になる場合もありますが、それはよほど気性の良い馬の場合だけで、少ないことです。競走馬は速く走るために、インブリードという近親交配をしていることが多いです。物凄く速かった馬はたくさんの子供を作って、もっと速い馬を生み出そうとされるので、ほとんどの競走馬には、例えば、父方の祖々父と、母方の祖々々父が同じ馬、などということが多いのです。この場合気性が荒く、人間の言うことを聞かない馬になることが多いです。まして、毎日ただひたすら走らされ、闘争本能を全開にさせられているので、素人が簡単に乗れるような、気性の良い競走馬などめったにいないのです。そして、G1に勝てる馬は年に数頭。あとは廃馬になります。牝馬(メス)は牡馬にくらべて、子供を産むことができるので、血統が良ければ、勝てなくても生かしておいてもらえる確立は、少し高いです。しかし、それとて、毎年丈夫な仔馬を産めればの話しです。


1989年11月27日。インターマドンナという名前の1頭の繁殖牝馬が用途変更を理由に廃馬になりました。用途変更というのは繁殖牝馬、つまり競走馬を産むための馬という用途としては使えなくなったということです。
その年の4月27日。インターマドンナは生涯最後の仔馬を産んでいました。その牡の仔馬は、生後7ヶ月で母を失いました。そして、2年後、今度は自分が生きる権利を得るために、馬運車に乗せられて、阪神競馬場に降り立ちました。